カヴァル

ブルガリアをはじめ、マケドニア、ルーマニア、トルコ、ギリシャなどの周辺国に広く分布する、木製の笛です。シンプルな構造ながら、3オクターブ近い音域を持ち、驚くほど多彩な音色を吹き分けることが出来ます。ブルガリアのカヴァルは、とりわけ特殊な奏法の宝庫です。

吹き口部分が一番特徴的で、尺八のような切れ込みやフルートの歌口部分のような音を出し易くする仕掛けがなく、ほとんど「ただの筒」です。これを口を若干すぼめて、斜めに構えて軽く息を入れることによって鳴らすのですが、何せ「ただの筒」なので、コツを掴むまではウンともスンとも鳴りません。

同じような吹き方をする笛は、中央アジア〜西アジア〜アフリカ北西部に至るまで実に幅広く見られるのですが、一つのキーワードは「羊飼い」です。これらの地域では、羊飼いと笛に関する共通した民話や言い伝え(良い笛を吹く羊飼いの羊は乳の出が良くなる等)が存在します。アラブやトルコ、ペルシアのナイ nay(ネイ ney)も同系統の笛ですが、こちらは古典音楽やイスラム神秘主義の儀式など、比較的オフィシャルな場で使われることが多いようです。

ガドゥルカ

ブルガリアの擦弦楽器(弓で弦を弾く楽器)です。ブルガリアでは特にドブルジャ地方やショプ地方で良く使われ、元々、歌や大道芸(熊使い、人形劇)の伴奏楽器として親しまれてきました。このタイプの楽器を用いて英雄叙事詩などを弾き語る吟遊詩人の伝統は、バルカン半島の他地域、ロシア、中央アジアなどに共通して見られるものです。

随分と弦が多いですが、メロディーを弾くための弦が3本で、他は共鳴弦です。バイオリンと同じくフレットがないため正確な音程を出すのが困難な上、バイオリンと違い弦が指板から浮いたままなので、特殊な押さえ方が必要という非常に難しい楽器なのですが、熟達した奏者になると、もう聴き取れないほどに速い旋律を、装飾音たっぷりに弾きこなします。

タンブーラ

ブルガリアの撥弦楽器(ピックや爪ではじく弦楽器)です。ブルガリアでは特にピリン地方、また隣国のマケドニアでも非常にポピュラーです。メロディーに、伴奏にと、活用の範囲が広い楽器です。この楽器も起源を辿れば、西アジアや中央アジアに至り、トルコの国民的弦楽器サズをはじめ、親戚のとても多い楽器です。

弦はスチール弦で、4コース×2弦(計8本)が主流ですが、もっと少ないもの、多いものもあります。現在のブルガリアではコードが弾き易いように、ギターの1〜4弦と同じように調弦するのが一般的ですが、本来は一番高い弦でメロディーを奏で、他の弦をドローン(通奏低音)にするという、シルクロードの弦楽器に一般的な弾き方をします。(日本の三味線も同じですね。)

タパン

ブルガリアの大太鼓です。ブルガリアのほぼ全域で使われますが、特にピリン地方ではトルコ起源のダブルリードの笛ズルナ zurnaと一緒に大変親しまれています。実はタパンも同じくトルコの太鼓ダウル davulが直接の起源です。

一方の手に太いバチ、もう一方の手に細いバチを持って、太鼓の両面を使って高低を叩き分けるのが特徴で、シンプルな構造ながら表現力が多彩な太鼓です。音量も大きく迫力があり、踊りには欠かせません。ピリン地方の踊りなどでは、時にダンサーがタパンの上に乗ってパフォーマンスするため、太鼓の内部に十字型の補強材が入っているものもあります。

ガイダ

ブルガリアのバグパイプです。バグパイプ自体、日本人には馴染みが薄いですが、中世やルネサンス期のヨーロッパにはどこにでも見られ、とても民衆に愛された楽器です。

バグパイプ一般の基本構造は、動物の皮で出来た袋に息を溜めて、袋に備え付けたリードの付いた笛に空気を送って吹くというものです。一旦袋を経由することによって、一度に複数の笛を鳴らせたり、息継ぎなしに絶え間なく吹き続けるようになる、というメリットが生まれます。音量も大きいため、祭りなど人の集まる場面に威力を発揮します。

ブルガリアのガイダは、葦製のシングルリードで、メロディーを受け持つチャンター管が一本、通奏低音を受け持つドローン管が一本という大変シンプルな作りです。しかし実際演奏するには、リードの調整に始まり、変則的な指遣い、ブルガリア特有の装飾技法の難しさなど、多くの壁を乗り越える必要があるという、なかなか大変な楽器です。ガイダはブルガリアのほぼ全域で使われますが、特にロドピ地方のカバ・ガイダという、サイズの大きい低音のバグパイプによる合奏は有名です。

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